case10他院で骨量不足と言われた上顎奥歯に、インプラント治療を行った症例

治療前後の写真

写真は上顎の奥歯を含む一連の歯列を、口腔内から撮影したものです。

治療前
治療前

上顎右側の奥歯が広範囲に欠損しており、噛む機能が低下した状態です。

治療後
治療後

インプラントを支えとしたブリッジにより、奥歯までしっかり連続した歯列が回復しています。

治療前
治療前
治療後
治療後

患者様が抱えていたお悩み

他院で「上顎の骨が足りないため、インプラントを入れるには大掛かりな骨造成手術(サイナスリフト)が必要」と説明を受けた患者様でした。骨造成の規模、治療期間、費用がいずれも大きな負担となり、治療に踏み切れずご来院されました。

骨を大きく足す手術以外の方法で、インプラント治療を受けたい」。これがご相談の内容でした。

検査でわかったこと

上顎洞の状態が確認できるレントゲン画像

上顎右側の骨が、上下両方から失われていました。治療前のパノラマX線写真では、上顎右側の臼歯部が長期にわたって欠損しており、その真上にある上顎洞(写真の黄色の線で囲っている箇所)という空洞が大きく下方へ広がっている状態が確認できます。

これは長期の歯の欠損で起こる、いわば必然の変化です。

上顎洞が下方へ広がってしまう要因

  1. 歯を失うと、その歯を支えていた骨は噛む刺激を失い、歯茎側から吸収されていく
  2. 同時に上顎洞は、歯を失った側へ下方へ拡大(含気化)していく
  3. 結果として、歯茎と上顎洞のあいだに残る骨の高さ(残存骨高径)は、下からと上からの両方向から吸収されてしまい、厚みがなくなってしまう

一般的なインプラントは長さ8〜10mmが必要とされます。この患者様の残存骨は、このままではインプラントの先端が上顎洞に突き抜けてしまう厚みしかありませんでした。他院で「骨がない」と説明されたのは、この状態を指しています。

隣の歯も保存が難しい状態だった

上顎右4番(治療前)

さらに、欠損部の手前にあった歯(過去に根の治療を受けていた歯)も保存が困難な状態でした。

右側で噛めないことによる二次的な影響

右側の奥歯で噛めないため、噛む力の負担が反対側に偏っていました。この状態が続くと、残っている歯にも過剰な負担がかかり、噛み合わせ全体の崩れにつながります。

治療方針
「骨を足す」のではなく「骨が育つ場所をつくる」

まず、一般的に提案される治療法

上顎洞が下がってきて骨が足りない場合、標準的に行われるのはサイナスリフト(上顎洞底挙上術・側方アプローチ)です。

①頬側の歯茎を大きく開く

②上顎洞の外側の骨壁に窓を開ける

③上顎洞の内側を覆う粘膜(シュナイダー膜)をはがして持ち上げる

④できたスペースに骨補填材(または自分の骨を採取したもの)を詰める

⑤6〜9ヶ月かけて骨が固まるのを待つ

⑥改めてインプラント埋入手術を行い、インプラントを埋入する

⑦さらに骨とインプラントが結合するのを待つ

確立された信頼性の高い方法ですが、切開範囲が広く腫れや痛みが出やすい、手術が2回必要、治療完了までに1年前後かかることがある、費用が大きくなるといった負担があります。

当院が選択した方法

CTで骨の厚み・上顎洞の形態・粘膜の状態を精密に計測したうえで、グラフトレスサイナスリフト(骨補填材を用いない上顎洞底挙上術)が可能と判断しました。

「グラフトレス(graft-less)」とは、骨の移植材料を使わないという意味です。骨造成をしないわけではありません。

骨が回復していく仕組みは下記です。

  • 上顎洞の粘膜をそっと持ち上げると、粘膜と骨のあいだにスペースができる
  • そのスペースを、埋入したインプラント自体が支柱(テント)となって支える
  • スペースは血液で満たされ、血のかたまり(血餅)になる。血餅そのものが骨に変わるわけではなく、これは骨をつくる細胞が入り込むための足場です
  • 周囲の骨や上顎洞の粘膜から、血管と骨をつくる細胞がこの足場の中へ伸びていく
  • 足場は少しずつ置き換わり、最終的に患者様自身の骨になる

これは、歯を抜いた穴が血のかたまりで満たされ、数ヶ月かけて骨で埋まっていくのと同じ仕組みです。体がもともと持っている治し方を、上顎洞の中で意図的に起こしているとお考えいただくとわかりやすいと思います。

つまり、「骨を足す」のではなく、「骨が自分で育つ場所をつくる」という考え方です。人工材料を入れないため、材料由来のリスクがなく、自分の骨を採取する必要もありません。

この仕組みのため、粘膜を持ち上げてスペースをつくる処置と、インプラントを埋入する処置は、同じ手術のなかで一度に行います。持ち上げた上顎洞粘膜を支えているのはインプラントそのものなので、「骨が再生するのを待ってから埋入する」という順序が成り立たないのです。従来法では詰めた骨補填材がスペースを支えてくれるためインプラントを後回しにできますが、その代わりに骨補填材が成熟するまでの待機期間と、2回目の手術が必要になります。この術式は、骨補填材を用いなくても良好な新生骨の形成とインプラントの安定が得られることが、複数の臨床研究で報告されています。

この方法が選べる条件

どの患者様にも使える方法ではありません。当院では次の点をCTで確認したうえで適応を判断しています。

  • インプラントの初期固定(埋入直後の安定性)が得られる骨の厚みが残っているか
  • 上顎洞に炎症がなく、排出路が正常に機能しているか
  • 上顎洞の形態が骨の再生に有利か(骨をつくる細胞と血管は周囲の骨から供給されるため、上顎洞の幅が狭いほど有利です)
  • 粘膜を傷つけずに持ち上げられる状態か

条件を満たさない場合は、骨補填材を用いる治療法などをご提案します。他院で診断された治療法以外にも、選択肢がある可能性があります。まずは、お気軽にセカンドオピニオンをご検討ください。

実際に行った治療

1回の手術で3つの処置を同時に実施

上顎右側に対して、以下を同時に実施しています。

  1. グラフトレスサイナスリフト上顎洞の粘膜を持ち上げ、骨補填材を使わずにインプラントを埋入するスペースを確保しました。持ち上げた粘膜を支えるのはインプラント自体であるため、この処置と②③の埋入は切り離さず、同じ手術のなかで続けて行っています。
  2. 奥側のインプラント埋入長期に欠損していた大臼歯部へ埋入。骨吸収が最も進んでいた部位です。
  3. 保存困難な歯の抜歯即時埋入前方の保存が難しかった歯を抜歯し、その抜歯窩へ同日にインプラントを埋入しました。抜歯してから治るのを待ち、あとで埋入するという工程を1回にまとめることで、外科処置の回数と治療期間を圧縮しています。

この組み合わせは技術的に難度が高い処置です。抜歯直後の骨は不安定で、しかも既存骨が少ない状況で、インプラントの初期固定を確実に得る必要があります。初期固定が得られなければ、インプラントが粘膜を支える支柱の役目を果たせず、骨補填材を使わない前提そのものが成立しません。

事前のCT診断で、この初期固定が確保できると読み切れたことが、低侵襲な術式を選択できた理由です。

治癒期間 約3〜4ヶ月

インプラントと骨の結合、そして上顎洞内で持ち上げたスペースの骨の再生が、同時に進行します。

ここでのポイントは、待ち時間が1回にまとまっているということです。従来法では「骨補填材が成熟するのを待つ期間」と「インプラントが骨と結合するのを待つ期間」が別々に発生しますが、同時埋入ではこれが1回で済みます。ここが治療期間の短縮につながっています。

上部構造の装着

2本のインプラントを連結したインプラントブリッジとして、奥歯3歯分の噛み合わせを回復しました。

あわせて行った処置

同時期に、下顎右側の大臼歯部にもインプラント治療を行っています。

治療結果

治療前
治療前
治療後
治療後

治療前後の口腔内写真をご覧いただくと、右側の奥歯が広範囲に失われていた状態から、奥歯までしっかり連続した歯列が回復していることがわかります。

治療期間は4ヶ月でした。従来のサイナスリフトを併用するインプラント治療では、骨補填材が成熟するのを待つ必要と2回目の埋入手術が必要なため、同じ状態から治療完了まで1年程度かかることも珍しくありません。

今回はこの2つの工程をグラフトレスサイナスリフトに置き換えたことで、大幅に短縮できています。

右側の奥歯で噛めるようになったことで、反対側に偏っていた噛む力の負担も分散され、残存歯の保護にもつながっています。

治療の概要

主訴他院で骨がないのでインプラントをするには大掛かりな骨造成が必要と言われたが、その他の方法がないか相談したい
治療期間4ヶ月
治療費1,650,000円(税込) インプラント(臼歯)3本分
55,000円(税込) グラフトレスサイナスリフト
55,000円(税込) 抜歯即時埋入加算
リスク術後の口腔管理が不適切な場合、埋入したインプラント周囲に感染・炎症を起こし、脱落する可能性があります。

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